- トップ
- プロジェクトストーリー
- 中国/四川省【パンダ輸送】
プロジェクトストーリー
中国/四川省【パンダ輸送】
3頭のパンダ「永明」「桜浜」「桃浜」を無事に中国に送り届けるまでの道のり
***本記事は、ANA CARGO様ANA CARGO様「CARGO+旅立ち」より引用・加筆・編集をしております。***
2023年2月22日、和歌山県のテーマパーク「アドベンチャーワールド」で暮らすジャイアントパンダ「永明（えいめい）」「桜浜（おうひん）」「桃浜（とうひん）」の3頭が中国へと旅立った。
「永明」は1992年に中国の北京動物園で誕生し、1994年に来日。約29年間で16頭もの子をもうけた「現在の飼育下で自然交配し繁殖した世界最高齢のジャイアントパンダ」として知られている。
ふたごのメスとして誕生した「桜浜」「桃浜」も「永明」の子どもだ。
-30歳の永明。人間でいえば90歳に相当する
左から永明、桜浜、桃浜。
永明 ーー 30歳のオス。1994年に来園し、これまで16頭のパンダ誕生に貢献した「グレートファーザー」。
桜浜・桃浜ーー ともに8歳のメス。アドベンチャーワールドで誕生した、初となるメスのふたご。
（画像提供：アドベンチャーワールド）
パンダに合わせた輸送を実現するために、どのようなハードルをクリアしなければならなかったか。その道筋をたどる。
アドベンチャーワールド × ANA Cargo × 南海エクスプレス
3社が阿吽の呼吸で輸送のハードルを乗り越えるまで。
今までも3社でパンダ輸送の実績を積み重ねてきており、今回の輸送は5回目になる。
旅立ちの日に向けて、3社でどのように進めていくかの打ち合わせを入念に行った。
コロナ禍の影響が大きい中、輸送には事前にさまざまな障壁が待ち構えていた。
従来であれば旅客機に貨物としてパンダを積み込み、スタッフも同乗して成都までの直行便で出国できていた。しかしコロナ禍のため、成都までの直行便が運休。 また、ゼロコロナ政策による中国側の厳しい検疫やスタッフの入国手続き難化の問題もあり、なかなかスムーズには行かなかったという。 3社で何度も打ち合わせを重ね、入念な実地検証を経て、輸送に関する課題や問題を解消した。
3社で緻密なシミュレーションを重ねたアドベンチャーワールドからの輸送
今回のパンダ輸送で一番難しいと考えられていたのは、30歳で高齢の「永明」の輸送だった。温度や振動、音に敏感な特性を持つパンダ。他の動物輸送と比べても、さらにデリケートな取り扱いが求められる。まして高齢のパンダならばなおさらだ。どんな小さな見落としがパンダたちの体力を奪うかわからない。コンテナや檻、積み込みのパレットなど、些細な箇所にも入念に気を配った。
「絶対に失敗するわけにはいかない」ーー3社で何度も確認し、密に連携をとっていった。
事前にパンダ搬出〜積み込みのシミュレーションも行った。
「2017年に3頭のパンダを輸送するときは当社だけでシミュレーションをして輸送を行ったのですが、今回は前例がない輸送になるので3社で念入りにシミュレーションを重ねました」と語るのはアドベンチャーワールド・ジャイアントパンダ飼育スタッフの真柴和昌さんだ。
真柴さん「輸送にあたっては、パンダの檻をパレットに載せて、ラッシングベルトで固定する必要があります。ですが普通にベルトを巻いてしまうと、パンダが檻から爪を出して引きずり込んで事故につながるおそれがあったんです。そのためベルトと檻の間に木製の板を挟んでもらったり、パンダ同士が干渉し合わないように檻の間隔を調整いただいたりしました。資材の手配から工程管理まで細かく確認いただけて安心して進めることができました」
-アドベンチャーワールド・ジャイアントパンダ飼育スタッフの真柴 和昌（ましば・かずまさ）さん
約200人のアドベンチャーワールドのスタッフが集まり、バックヤードから出てきて、トラックへと積み込まれる「永明」「桜浜」「桃浜」の3頭を固唾を飲んで見守った。
当社担当者は現場で早朝から積み込み準備を行っていた。
糞尿の対策に、檻の下にトレイを設置し衛生管理も抜かりはない。
真柴さん「搬出のときは多少そわそわしていましたが、3頭とも非常に落ち着いていました。桜浜は少し神経質な性格のため、積み込みまではずっとそわそわしていましたが、呼吸などに異常は見られなかったので安心しました。永明は終始ずっと落ち着いていて竹をたくさん食べていました。パンダたちの性格が出ていた搬出といえます」
そして、アドベンチャーワールドから当社へとバトンが渡され、パンダ3頭を載せた南海エクスプレスのトラックがアドベンチャーワールドを出発した。
安心・安全な輸送の実現のために。
南海エクスプレスの工夫とは
写真左から川田 尚照（かわた・なおてる）、梅田 恭佑（うめだ・きょうすけ）、牧 慧太郎（まき・けいたろう）、塩路 昌平（しおじ・しょうへい）
搬出に挑んだ南海エクスプレスの輸送チームメンバー4人。動物輸送・医薬品輸送などの特殊貨物輸送を担当するチームだ。
当日、パンダが入る檻を事前に借り、パンダ輸送の為の台座をオーダーメイドで作成した。
檻と台座の固定を行うラッシングベルトも、固定の仕方を工夫することで衛生管理の面でのリクエストに 応え、檻の下に設置したトレイの出し入れが可能な梱包で今回の輸送に対応した。
また、本番と同じトラック・コンテナ・パレットを用意。積み付けのシュミレーションをアドベンチャーワールドで行い、 １台のトラックの中でパンダを載せた際、檻の間隔をしっかりと保ち、パンダ同士が接触しないか確認を行った。
さらに、今回のパンダ輸送については、アドベンチャーワールドから輸送温度の指定があった。
1年の中でも特に冷え込む2月半ばで、永明の身を守るためには常に一定温度を保つ必要がある。
なおかつ振動や音でダメージを与えないため、細心の注意を払って関西国際空港まで送り届けなければならなかった。
非常にデリケートな輸送をどのように乗り越えたのか。
牧「輸送時の温度はアドベンチャーワールドさまが特に気にされていたポイントだったので、常に10〜20℃の適温を保つことができる4トントラックの温調車を使用しました。当日はパンダの様子を見て13℃に設定しています。通常は医薬品など温度の逸脱をしてはいけない貨物に用いますが、社内でも検討を重ねて最善の形になるよう手配しました。積み付けについてもシミュレーション通り、万が一がないよう徹底して確認しましたね」
今回の輸送ではどうだったか。
牧「我々も交通状況については懸念していましたが、スケジュール通り遅延なく送り届けることができました。トラックを運行するメンバーとは別に、残りのメンバーでトラックを追走して交通事情の確認も行いつつ、車で帯同されていたアドベンチャーワールドのスタッフさまやANA Cargoさまと設定したチェックポイントごとに連絡を取り合っていました」
事前に実際走る車線をシュミレーションし、当日はパンダを運ぶトラックの他に２台、トラックと同じルートを走行し道路状況を報告する車とトラック先導車を用意した。
スピードや車間距離にも細心の注意を払い、幸いなことに渋滞や事故にも見舞われず安心安全に運行できた。
道中の、各スポットで行った運行スケジュールの定期的な連絡も全体の安心感につながった。
塩路「けっこうな頻度でANA Cargoさま、アドベンチャーワールドさまと連絡をしていましたね。走行している場所や、道路工事中の場所まで詳細に伝えていましたので、全員が同じスケジュール感を共有できていたのは大きかったと思います。また、アドベンチャーワールドの方から『安全に運ぶためにできるだけ秘匿性を保ちたい』というご要望がありましたので、途中サービスエリアで停車して健康状態を確認する際に、後部扉から目立たず確認できるように工夫を行いました」
世間的に注目度の高かった今回のパンダ輸送。
パンダと関係者の負担を減らすために細やかな工夫も欠かさない。
そしてトラックは無事に関西国際空港へ到着した。弊社関空倉に入り、
書類提出や検査検疫などの事前に、税関との調整を重ねた事もあり通関の書類提出や申告許可もスムーズに進め、時間的にも十分な余裕ができた。
また、秘匿性の観点から隣り合う会社や周辺業者には前もって共有しておき、周囲のトラブルがないようにも配慮した。
無事に関西国際空港まで到着したパンダ3頭。アドベンチャーワールドのスタッフがそれぞれパンダの体調チェックを行い、無事を確認したら荷台からフォークリフトで取り下ろし、航空機に搭載するコンテナへの積み付けを進めていく。
真柴さん「永明は比較的落ち着いていました。パンダたちは音だけでなく、景色の変化にも敏感です。ですので南海エクスプレスさまとANA Cargoさまには極力静かな環境にしてほしいということをお願いして、作業音と人の目を避けるために貨物上屋の中にコンテナで壁を作ってもらっていました。おかげで我々もパンダのケアに注力することができ、非常にありがたかったです」
周辺環境にも注意を払うことで、パンダへのストレスを軽減し、輸送に関わる人間がスムーズに作業しやすいように手はずを整えた。
そして最後のバトンをANA Cargoに渡し、成都までの最後の伴走が始まる。
動線管理から温度管理まで…
パンダのストレスを最低限に抑えるためにANA Cargoが行ったこととは？
アドベンチャーワールドからの搬出や、関西国際空港までの輸送、貨物上屋での積み下ろしまで3社が密に連携をとってつないだ輸送。パンダをコンテナに搭載する際も、慎重にルートの検討を重ね、積み付けの時間を短縮するタイムマネジメントに努めたという。
今木さん「上屋への到着からコンテナへの積み付けまで、パンダの負担軽減のためとにかく無駄がないよう検討を重ねました。3頭のパンダの並びも考え、まず永明をコンテナに載せて計量し、待機スペースを事前に確保。そして桜浜、桃浜も同じように動線を確保して、各社に工程の連携を取りました。また、アドベンチャーワールドさまには温風を吹き出すジェットヒーターを用意いただき、待機中に永明が寒がらないようにくまなく配慮をいただきました」
-輸送に関する工程管理を担当した
ANA Cargo
今木 和典（いまき・かずのり）さん
終始トラブルもなく、スムーズに進んだという。
そして上屋から航空機へパンダたちのコンテナの移送が始まった。
通常、航空機が駐機するスポットは空港会社により割り当てられるが、今回は予断を許さない特別なケースのため、積み込みがシームレスに行えるよう一番近い駐機場をあらかじめリクエストしたという。
パンダを無事に成都へ送り届けるために、細かい段取りもすべて考え抜いて行われた。
渡部さん「『どうすればアドベンチャーワールドさまの要望に応えられるだろう？』と、事前に本番と同じ機材を使って飛行機に温度計を搭載し、飛行中の温度推移のモニタリングを繰り返しました。貨物室は4℃以下になると温風が出て温度を調整するのですが、常に10℃以上に保つのは前例がなかったんです。何度も試験をして、結果的に飛行中は常に10℃以上の気温に保つことができることをお伝えしたので安心されたご様子でした。酸素濃度についても常にログを取りながら適正な濃度範囲を保ち、安全な輸送に努めました」
-パンダ輸送のプロジェクトリーダーを務めたANA Cargo
渡部 剛（わたべ・ごう）さん
例えば貨物を搭載するカーゴドアの近くは温度が低くなりがちになるなど、場所によっても温度変化がある。
渡部「貨物室最後方には手荷物や預かったペットを載せる「バルク」という場所があります。そこが18℃から23℃まで温度を設定できる温かい場所になるので、もろもろ検証を重ねて、永明はバルクポジションの真横に搭載することを決めました。バルクから温かい空気が流れるようにして、快適な室温を保つ工夫をしたんです」
3社の思いを乗せた飛行機が飛び立った。
飛行機の貨物室へパンダが1頭ずつ積み込まれていく。
アドベンチャーワールド、ANA Cargo、南海エクスプレスの3社の思いはひとつ。「とにかく無事に成都までたどり着いてほしい」
ーー祈るような気持ちだった。
一同、神妙な面持ちで積み込みの様子を見守っていた。パンダの体調への不安、別れを惜しむ寂しさ、無事にここまで送り届けることができた達成感が入り混じった表情だった。
そして「永明」「桜浜」「桃浜」のパンダ3頭を載せた飛行機は、関西国際空港から成都に向けて旅立った。
見送る人たちは飛行機が見えなくなるまでずっと、ずっと旗を振っていた。安堵の気持ちか寂しさか、現場には涙ぐむ者もいた。3社のメンバーはそれぞれ声を掛け合い、功績を称えあったという。
飛行機は午後7時過ぎに日本を出国し、成都基地には23日未明に到着するスケジュール。機内では同乗したアドベンチャーワールド・真柴さんとANA Cargo・渡部さんが互いに声を掛け合い、成都まで5時間のフライトに臨んだ。
渡部さん「とにかく成都まで『必ず無事に戻すんだ』と強い気持ちで飛行機に乗り込みました。搭乗中も『永明は大丈夫だろうか』とアドベンチャーワールドさまも私も不安でたまりませんでしたが、お互いに励ましあって乗り越えました」
飛行機は無事に成都にたどり着いた。検疫の関係ですぐに飛行機から降りることができず、パンダがどうなっているのか一同不安でたまらなかったという。
渡部さんは「機内の窓から動く永明の姿が見え、その写真を皆さんに見せたとき、本当に嬉しそうな表情をされていたのが非常に感慨深かったです」と語る。
南海エクスプレスの現地駐在スタッフも空港で到着を見守り、現地の状況を日本国内のメンバーと共有した。
パンダ輸送プロジェクト ３社担当者の想い
あらためて、当日を振り返った感想を聞いた。
真柴さん「成都ジャイアントパンダ繁育基地のスタッフからは、3頭のパンダをここまで健康に育てて無事に送り届けてくれて本当にありがとうという声をいただきました。非常に感慨深いですね。これまでアドベンチャーワールドで永明たちパンダを愛してくれたお客さまにも安心していただける結果になって本当によかったです。ひとえにANA Cargoさま、南海エクスプレスさまの協力のおかげだと思っていますので、今後も同じような機会が訪れた際にはぜひご協力をお願いしたいです」
渡部さん「今回のパンダ輸送はANA Cargoのミッションの中でも特に難しいものでしたが無事に乗り越えることができました。我々は今後も、お客さまのニーズに合わせてできる限りの対応をしていくつもりです。パンダ輸送のノウハウを活かし、特別な動物輸送や、愛するペットの輸送などといったお客さまに新たな価値を提供できるような取り組みを今後も検討していきます」
塩路さん「とにかく無事に到着してくれてよかったということに尽きますね。輸送から通関までひとつひとつの作業をしっかり噛み締めながら進められたので満足行く結果になったと思います。チームメンバーで協力しながら、また他社さまとも連携しながら進めるのはすごく大変でしたが、我々としても非常に実りあるものになりました」
******
エントリー
当社の企業理念や業務内容に共感された方の
エントリーをお待ちしています。